「——ってことなんだけど、紺谷」

 「え、あ、はい!」

 先生の説明と一緒に追っていた教科書の文章だけれど、どこまで読んだのか忘れるほど驚いた。世界史の板垣先生は、いつもこうして不意打ちで名指ししてくる。

 「次の段落まで読んで」

 まだ五月なのに、入学してからもう二回目だ。

 わたしは腰を上げて、なんとか今解説されているところを見つけ出し、指定された場所を読み上げる。

 「——うん、ていうことで、これ——」

 チョークが黒板をぺしぺしと叩いて文字を並べていく。わたしはそれを眺めながらシャーペンを握り直す。

 ノートに黒板の文字を書き写していると、チョークがこつんと黒板を叩いた。

 「が、起こったわけよ。ゲームとか漫画で、名前くらいは聞いたことあるでしょ」

 ちょうどその瞬間、授業終了のチャイムが響いた。

 「はーい、いいところで鳴ったね、きょうも。あさってだっけ、次回はちょっと飛ばしていくよ」

 「ええー」とうんざりした声があがる。

 「遅れてんだよ」と先生は教科書をとんとんと叩きながら苦々しく笑う。「それとも、もっとテストが近づいてからまとめてやる?」

 「お願いだから早いとこ取り返してください」と冷静な声がひとつあがる。

 「そうよな?」と先生も満足げ。

 「はい日直」と呼びかけられ、わたしは隣の席の榊くんと一緒に「起立」と号令をかける。

 「三時間目の授業を終了します。ありがとうございました」

 「ありがとうございました」

 「お疲れ」といって先生が教室を出ていくのを見送って、わたしは思い切り伸びをする。あと一時間。あとひとつ、授業を乗り切ればごはんの時間。しかもきょうはパンの日!