「小学校に、おとなしい女子がいたんです。そんなに目立つ人じゃなかったんですけど、授業でさされればすらすら正解を答えるような人です。俺もそんなに仲がよかったわけじゃないので、これ以外には普段の様子で印象に残ってるところはないんですけど。
桃原と秋野は、その女子とよく一緒にいました。俺だって、べつに女子に水をかけるのが趣味とかってわけでもないですし、その三人がなにをしてたかとか、どんな話をしてたかとかは知りません。俺は仲いい男子と、教室にあったトランプとか、一個だけ駒がない将棋とかで遊んでました。
一学期の終わり……? いや二学期がはじまったころかな、暑い時期に席が変わって、桃原と秋野が俺の近くの席になったんです。くじ引きかなにか、ランダムで決めたんで、何組か女子と女子が隣になってるところもあって、桃原たちもそのうちのひと組だった。ちょうど俺の一個前の席にふたりがいたんです。目の前です。
ふたりは仲がいいみたいでした。よく一緒にしゃべって笑ってました。ほかにもそんな女子いっぱいいたし、俺だって友達としゃべってるときはふたりと同じようだったはずだし、……っていうことを考えるでもなく、べつにふたりをよく見るとかいうこともしませんでした。ほんとに普通の小学校の教室って感じですよ。
でもいつだったか、……やっぱり暑い時期です、ふたりが『なんかうざいよね』って話してるのが聞こえました。自分の友達がそういってて、たしかにって思えなかったら否定することもあったけど、それくらいのこと、よく聞いたし、やっぱりべつに気にしませんでした」
ふと、雪森くんが咳払いをして、先生が「水飲むか」と立ちあがった。先生は部屋の隅のダンボールから二リットルのペットボトルを取り出すと、紙コップと一緒に持って戻ってきた。紙コップをみっつ取り出すと、それぞれに一杯分注いで、うちコップのふたつを、それぞれ雪森くんとわたしの前に差し出した。
雪森くんはお礼をいって、一口水を飲んだ。「ああ、うま」とぽろっとこぼしてしまったような声に、先生もやさしく笑った。
桃原と秋野は、その女子とよく一緒にいました。俺だって、べつに女子に水をかけるのが趣味とかってわけでもないですし、その三人がなにをしてたかとか、どんな話をしてたかとかは知りません。俺は仲いい男子と、教室にあったトランプとか、一個だけ駒がない将棋とかで遊んでました。
一学期の終わり……? いや二学期がはじまったころかな、暑い時期に席が変わって、桃原と秋野が俺の近くの席になったんです。くじ引きかなにか、ランダムで決めたんで、何組か女子と女子が隣になってるところもあって、桃原たちもそのうちのひと組だった。ちょうど俺の一個前の席にふたりがいたんです。目の前です。
ふたりは仲がいいみたいでした。よく一緒にしゃべって笑ってました。ほかにもそんな女子いっぱいいたし、俺だって友達としゃべってるときはふたりと同じようだったはずだし、……っていうことを考えるでもなく、べつにふたりをよく見るとかいうこともしませんでした。ほんとに普通の小学校の教室って感じですよ。
でもいつだったか、……やっぱり暑い時期です、ふたりが『なんかうざいよね』って話してるのが聞こえました。自分の友達がそういってて、たしかにって思えなかったら否定することもあったけど、それくらいのこと、よく聞いたし、やっぱりべつに気にしませんでした」
ふと、雪森くんが咳払いをして、先生が「水飲むか」と立ちあがった。先生は部屋の隅のダンボールから二リットルのペットボトルを取り出すと、紙コップと一緒に持って戻ってきた。紙コップをみっつ取り出すと、それぞれに一杯分注いで、うちコップのふたつを、それぞれ雪森くんとわたしの前に差し出した。
雪森くんはお礼をいって、一口水を飲んだ。「ああ、うま」とぽろっとこぼしてしまったような声に、先生もやさしく笑った。



