二日後の昼休み、まんまと雪森くんは担任の坂本先生に呼び出された。

 雪森くんが教室を出てから、いてもたってもいられなくなって、席を立った。

 ふたりのあとを追って雪森くんの隣につくと、すぐにふたりの視線を感じた。

 心臓がうるさいことには気づかないふりを決めこんで、そっと息を吸いこむ。

 「おとといの……掃除の時間のことですよね。わたしも、あの場にいたので」

 ——全部、正直に。


 相談室にははじめて入った。テーブルとソファがあるのばっかりが目に入るけれど、よく見渡せば、窓際や陽のあたるところには花や緑が鉢植えにされている。

 三人の全員がソファに座ると、先生は「なかなか物騒な言葉が飛び出したみたいだね、雪森?」と切り出した。

 「ええ」と雪森くんはいたって冷静に答える。

 「ね、紺谷?」と先生はわたしを見た。

 「はい」

 「なんであんなこといった?」

 「口論になったんです」と雪森くん。

 「紺谷。雪森は誰と言い合ってた?」

 わたしがあの場にいた、というのをたしかめたいんだとすぐにわかった。

 実際、「桃原さんと」と答えると先生はうなずいた。そうか、というふうではなく、ひとりで納得しているみたいに。

 「雪森。なんで口論になった?」

 「桃原とは小学校のころから問題がありました」

 「その問題(、、)について口論になった?」

 「ええ」

 「紺谷。その問題について、ふたりはたしかに言い合ってた?」

 「はい、桃原さんが前に、雪森くんに水をかけられたと——」

 直接いってたわけじゃない。こういうの、なんていえばいい?

 「そのように、受け取れる……わたしには受け取れる言葉がありました」

 「水をかけた? わざと?」

 「そんなふうに、わたしには聞こえる言葉がありました」

 「雪森?」

 「はい。たしかに小学校のころ、桃原に水をかけました。暑い日、バケツいっぱいの水を。桃原だけじゃない、秋野にもかけました。ふたりが同じところにいたので、そのふたりに、俺が水をかけたんです」

 「なんでそんなことをした?」

 「許せなかったんです」

 雪森くんの冷静な声に、静かな怒りがにじんでくる。

 「桃原のことも、秋野のことも。小学校には、——名前も出すべきですか」

 「強制はしないよ。名前を出しても、誰かに話すことはない」

 雪森くんはほんの小さく、うなずいた。