部活終わり、わたしはしんとした自転車置き場で雪森くんを待った。

 ちらちらと帰る人がきたときには、かばんの中を確認しているふりをしたり、自転車の荷台にかばんを固定するふりをしたりした。

 「あれ、紺谷?」と声がして振り返り、わたしは「お疲れさま」と笑ってみる。「お疲れ」とさわやかな笑顔が返ってくる。

 雪森くんはなんでもないように、自分の自転車のそばにいく。わたしは自分の自転車を押して雪森くんの隣についた。

 「どうした?」とやさしい目がわたしを見る。同時のときとは、まるで違う雰囲気。

 「掃除のとき……」と切り出すと、一瞬、雪森くんがぴたりと動きを止めた。

 「いたの?」

 「多目的室だったの。向かう途中、雪森くんの声が聞こえたから、つい……」

 「どこが気になった?」と雪森くんはいった。どこか、諦めたような、覚めたような声で。

 「俺の凶暴性? 桃原のぶすっぷり?」

 「雪森くんの、このあと」

 雪森くんはじんわりと驚きが満ちていくように、ぱあっとまぶたを開いた。

 「そんなこと、なんで紺谷が気にするの」

 「好きだから」とは、一瞬の迷いもなく口から飛び出した。

 雪森くんはくしゃっと笑った。

 「やだね、なんか泣けるじゃん」

 「泣いてる場合じゃないよ。ほんとうに桃原さんが先生とかにいったらどうするの?」

 雪森くんはすっと冷静になって、ふうっと息をついた。

 「どうもこうも、全部正直に話すだけだよ」

 「……」

 そうするべきだとは思う。そうしなきゃいけないとわかっている。でも、でも……。

 「ねえ、紺谷」

 やさしい声に、わたしは雪森くんをちょっと見あげる。雪森くんはあくまで冷静に、おだやかに、ほほえんでいる。

 「俺は、しゃべったこともやったことも、全部、あとで取り消すつもりなんてないんだよ」