——で、お互い違う服で向かい合う日曜日。

 「雪森くんのばか……。恋愛小説の読みすぎだよ……」

 「いったでしょ? 俺はジョナスになりたい。紺谷をマデリンにしたい」

 「だからって……!」


 ああ、思い出しただけでも顔が熱くなる。

 きのう、玄関まで見送りにきてくれた雪森くん。

 「待って」というと、わたしの腕をつかんだ。そしてぐいっと引き寄せて、「あしたはなにか予定あるの、姫?」なんて、内緒話でもするみたいにささやいた。

 「ない」ってなんとか声を絞り出すと、「じゃあ、会いたい」と雪森くんはいった。


 「ま、マデリンは細身の美女です……!」

 「はあ……。紺谷もくだらないことをいうねえ。いったでしょ、紺谷。なんで俺の声、聞いてくれないの」

 「聞いてます……」

 「じゃあなんで自分を卑下するの?」と、甘すぎるほど、やさしすぎるほどの声が静かにいう。

 卑下してるとかじゃない。わたしが雪森くんと釣り合わないことなんて、疑うまでもない。友達と写った写真の中の、ひとりだけ大きな体の自分があざやかすぎるほどはっきりと思い出される。よく今まで、でぶと笑われなかったと思う。

 「紺谷? こっち向いて」

 「痩せてるほうがきれいなのっ、それが現代の美学なのっ」

 「ねえ紺谷。俺は紺谷が好きなんだよ。紺谷が紺谷でいるのって、その姿だからなの? そのきれいな目も、ちっちゃくてかわいい口も、ふっくらしたほっぺたも、紺谷の一部でしかないでしょ?

たしかに、その一部(、、)は紺谷の全部(、、)をちょっとづつ表してるよ。目は紺谷のやさしさを、口は紺谷のかわいらしさを、ほっぺたは紺谷のやわらかさを。

でも、これから先、たとえばその目が曇ったとして、口角が疲れたようにさがったとして、ほっぺたがほそくなったとして、紺谷の思うこと考えること、いうことって、絶対なにも変わらないでしょ。

そりゃ、疲れたなとか、よっこいしょとか、今はあんまりいわない思わないことをいったり思ったりするかもしれないけど、でもそれで、紺谷がいいなって思うこととか、嫌だなって思うことって、変わらないでしょ。

俺はそういう、紺谷のなにがあっても変わらない部分が好きなの。見た目なんて、歳取ったり体調悪かったりしたらいくらでも変わるでしょ。そんな部分の大切さなんて、俺にはわからない。

誰になにをいわれたのか、わからないけどさ。……紺谷の中に、俺以外……入れないでよ」