部活で酷使したのどとおなかを右手で左手でいたわりながら、靴を履きかえて昇降口を出た。

 自分の自転車のそばにいくと、「ああ、紺谷だあ」とのんびりした声がした。

 「雪森くん」

 おつかれ、という雪森くんに、おつかれと答える。

 「紺谷って何部なの?」

 「合唱部。一番はじめに声をかけられたところにしようって決めてて。雪森くんは?」

 「俺は野球部。小学校からやってたから、その流れで」

 そういえばわたしの小学校にもやってる人いたな、と思い出す。その人たちも野球部に入ったのかな。

 「ピッチャー?」

 「そのほうがかっこいい?」

 「……違うの?」

 「キャッチャー」

 「すごい。頭よくないとできないんだよね」

 「俺ができるんだから、そうでもないんじゃない?」と雪森くんは笑う。

 「なんでキャッチャーやろうと思ったの?」

 「ポジ決めのときに、向いてるっていわれたから」

 「そうなんだ。はじめたときには、どのポジションに憧れてたの?」

 雪森くんはしんと黙りこんだ。いけないことを聞いちゃったかなと怖くなったころに、彼は「なんだったんだろう」としみじみとつぶやく。

 「えっと、……じゃあ、なんで野球をやろうと思ったの?」

 「楽しそうだったから」

 これは間髪を入れず。

 「ああそうだ、俺は野球がやりたかったんだ。だからべつに、自分がグラウンドのどこにいるかにはこだわってなかったんだ」

 あまりに純粋な野球への興味と愛に、思わず笑ってしまう。

 「雪森くんらしいね」と、雪森くんのなにを知っているでもないのに、いってしまった。

 「でしょ?」といってくれる笑顔がまぶしい。