「実はジョナスのほうもまた、ちょっと困ってたんだよ」

 「その、ジョナスって人は何者なの?」

 「ジョナス・ヴァーノン——その男はマデリンの父さんが借りてる土地の(あるじ)、その息子なんだよ」

 「へええ。じゃあ、畑がめちゃくちゃになっちゃったことを知って、助けにきてくれたの? ん? でもなんでマデリンと結婚なんかするんだろう……。実は幼なじみ……かなんかで、ジョナスは前々からマデリンのことが好きだった、とか……? てことはこれ、恋愛のお話?」

 雪森くんはまた楽しそうに笑う。

 「このジョナス、きょうだいがいないんだ。兄も弟もいない。時代が許すかはわからないけど、姉も妹もね」

 「なにを許すの?」

 「ジョナスには、この土地を守る義務があるんだよ。ヴァーノン家の長男としてね。土地はヴァーノン家の歴史そのものだからね。これからも貸すなりなんなりして、存続させていかなきゃいけない。

ジョナスに女の人であってもきょうだいがいて、その人に自分の家族があったなら、その女の人の子供に土地を託すこともできるってこと。まあ、当時は男が世を家を動かす時代。ジョナスに女きょうだいがいたところで、そんなふうにことが進むかはわからないけどね。

でも実際には、ジョナスにきょうだいはいない。ジョナスはひとりっ子。後々、土地はジョナスのものになる。

でもジョナスだって人間だから、いつかは……ってことで、そのためには自分の家族が必要で。でもジョナスは、ちょっと前に二十一歳になったマデリンよりもいくつか歳上。時代は二十一歳の女の人が恋愛を諦めるような慌ただしさ。実際にはジョナスは二十四歳だったけど、それはもう、結婚相手にあれこれ欲をいえる歳じゃない。

さてどうしようかってところで、自分の父さんが貸してる土地が争いで荒れた。そこを使ってる小作人の娘さん。彼女は二十一歳。相手もまた、結婚相手に欲はいえない。

こりゃあもう結婚するしかないっしょ、ってことで、ジョナスはマデリンにプロポーズしたってわけ」

 「なるほどねえ……。難しいなあ……。ジョナスもいろいろ大変なんだもんね……。え、それでマデリンはどうしたの?」

 「『お断りします』ってさ」と雪森くんは笑う。

 「ああ、ジョナスが……!」

 「でもジョナスも必死だからね。プロポーズを受け入れてくれれば、畑は自分が立て直してあげようっていってみたんだ」

 「うーん、むりやりでもなあ……」

 マデリンの気持ちはどうなるの……?

 「でもマデリンのほうも、生活がかかってる」

 「え、でもマデリンは結婚はしないで、仕事に生きるって決めてたんでしょ?」

 「その仕事をするにも、畑を立て直さなきゃいけない」

 「ああ……!」

 「ジョナスも必死だからね」と雪森くんはもう一度いった。