次の国語の時間、「ネタバレってどうするんですか?」という質問があがった。

 「していいよ。相手に興味を持ってもらう、おもしろそうだと思ってもらうことが目的だからね。今回話を聞いて、その本を読んでみるのも、そういう本があるんだって頭の片隅においておくんでも、それは完全に自由です。先生も話し手も、そこには一切干渉しない。いいね」

 ちらちらと「はい」という答えがこぼれ、「じゃあ、はじめ!」と先生が合図した。

 聞き手ってどうしてたらいいんだろうと思っていると、「紺谷」と呼ばれた。雪森くんの、声に。

 わたしが、ひとつだけ——聞いていればいい声。

 振り返ると、雪森くんが先を緑色に塗られた棒を持ってこちらを見ていた。雪森くんは、語り手なのだ。

 「聞いてくれる?」とやさしい声にいわれて、わたしはひとつうなずく。

 わたしは、雪森くんの声を聞けばいい。

 雪森くんの声、それだけを聞けばいい。

 それがきっと、ふたりだけの小宇宙へいくための、扉を開ける方法。

 雪森くんの声——それだけに耳を澄ましたとき、雪森くんの姿——それだけを見つめるとき、世界は、ほかに誰もいない、ふたりだけの小宇宙になる。