そんな感じで行われた席替えの結果、右斜め後ろの席に雪森くんがきた。「あー、紺谷だあ。かわいい」という声で、なんともいえない気分になった。

 「かわいいっていわないで!」と声をひそめて返す。

 やっぱりわたしは、目立ちたくない。小学校の六年間みたいに、おだやかで静かな、平和な日々を過ごしたい。

 雪森くんが不思議そうな、そしてちょっぴり悲しそうな顔をしているのを見て、なんだか心が痛む。いい方がひどかったかもしれない。

 「……なにかあった?」と雪森くんの静かな、わたしを気にかける声。

 「あった……っていうか……」

 これは全部、雪森くんのせいじゃない。わたしが自分で、避けようと思えば避けられたこと。雪森くんと高瀬さんが話しているのを聞いたときから、雪森くんとは一切、関わらなければよかっただけのこと。

それだけのことを、わたしはしなかった。

雪森くんほど目立つ人のそばにいれば、雪森くんや自分がどう思われるか、そして時には、その思っていることや考えていることを言葉にされるということくらい、わかったはずなのに。想像、できたはずなのに。

 わたしはそれを考えないで、想像もしないで、雪森くんと一緒にいるときの、心地よい緊張感の中に浮かんでいることを……選んだ。

 「なにがあったの?」と雪森くんはつづきを促してくる。

 「なにもないよ」といってわたしは笑う。「うん、なにもない」

 「紺谷、なんか変だよ」

 「なんでもないってば、大丈夫。……でもやっぱり、あんまりそういう……からかうようなこといわないでよ」

 わたしの隣の席がうまって、「からかってなんか……」という雪森くんの声に背を向けるようにして、わたしは自分の席についた。