「紺谷さん、雪森と仲いいの?」

 昇降口のタイルをほうきで掃きながら、秋野さんがいった。雪森くんは近くの廊下を掃除している。

 「ううん、いいってほどじゃないよ」

 「でも最近、よく一緒にいるよね?」

 「雪森くんが話しかけてくれるから」

 「ふうん……。どんな話してるの?」

 「雪森くんの変人っぷりがわかる話」

 そういってわたしが笑うと、秋野さんもひかえめに笑った。

 「具体的には?」

 「雪森くんって、かわいいのポイントずれてない?」

 「ん?」

 「なんか、わたしがそれかわいいのかなって思うようなものに対して、よくかわいいっていってる。きれいだと思うものも変わってる。わたしがきれいだと思うものを、雪森くんはきれいだと思わないみたい」

 「……あいつにいわせれば」と秋野さんは小さくいった。

 「あいつにいわせれば、美人はまず、ぶす。見た目がいい人はまずぶすっていうの、あいつは。俺変わってます、俺は周りのやつがかわいいと思うようなやつにはかわいいとかいいません、みたいな、変わり者を演じて注目を集めたいんだよ。そういうばかなの、そういう、もう……一種の病気みたいなものなの」

 「どうしてそんなに注目を浴びたいのかな?」

 「目立ちたがりなんでしょ、生まれつきのね」

 秋野さんは、はあと息をついた。

 「紺谷さんは、あいつに嫌われないようにしなね」

 「……好かれてるのかな」

 「あいつは人の好き嫌いはかなりはっきりしてるよ。自分が気に入らない相手には、平気でぶすとかばかとかいうし。紺谷さんはいわれたことないでしょ」

 「……うん……」

 「それは好かれてる証だよ。あいつは、嫌った相手はもう、敵みたいに扱う。あいつの視界の中では、まじめに、清く正しく、……美しく、いなくちゃいけない」

 「秋野さんは、なにか悪いことしたの?」

 秋野さんは悲しい顔で笑った。

 「あいつに聞くといいよ。……紺谷さんは、あたしを美人だと思う?」

 わたしは迷わずうなずいた。「すごくきれいで、かわいいと思う」

 秋野さんはまた、悲しく笑う。寂しそうに。

 「あいつは、あたしのその、……すごくきれいで、かわいい皮を剥がしてくれるよ」

 「……どういう意味?」

 「あいつは正しいよ。うん、たぶん正しいの。あたしよりは、きっと」

 「……」

 「紺谷さんは、雪森のこと好き?」

 「……わからない。ちょっと、怖い」

 「あいつの本音を知った時に、あいつをどう思うかで、紺谷さんの正しさがわかるよ」

 「どういうこと?」

 秋野さんは、「あいつの印象が変わるといいね」とやさしくいって、ほほえんだ。

 それから秋野さんは、「あいつにびびるようなやつには、ならないほうがいいよ」ともいった。

 まるで、雪森くんがほんとうに正しいみたいに。雪森くんは決して、悪い人ではないみたいに。

 まるで、さっきの言葉とは裏腹に、秋野さんが雪森くんを怖がっているかのように。