掃除場所の昇降口につくと、雪森くんと秋野さんが向き合っていた。

 「あれー? くっそほど性格悪い雪森じゃーん」

 ……はい……?

 「あーあ、なんっていいメンバーかな。大好きな大好きな雪森がいるだなんて!」

 あ、秋野……秋野さん……。

 ものすっごい嫌味いってる!

 え、ちょっと待って。これ、わたしが秋野さんを守ろうだなんて出すぎた考えだったんじゃ……?

 雪森くんはというと、まるで目の前に秋野さんが存在しないみたいに、掃除道具を入れてあるロッカーへ向かった。

 秋野さんがその腕をつかむ。それに引っ張られる形で、雪森くんはやっと秋野さんと目を合わせた。

 「調子に乗らないでよね。あたしがあんたにびびるはずなんてないんだから」

 「……」

 ゆ、雪森くん……?

 「あんた、あたしに対しちゃ加害者だよ?」

 「……」

 き、聞こえてるでしょ……?

 なんでそんなに凄まれて、目の前に誰もいませんみたいな顔ができるの……⁉︎

 「なんかいいなよ」

 でも、秋野さん強い。そうだよ、どんどんいってやらないと。

 「ばかとぶすほどよく喚く」

 ああ……。

 「……はあ?」

 「離せ。反吐が出る」

 雪森くんは秋野さんの手を振りほどいて歩みを再開した。

 「ふざけんなよ!」と秋野さんが叫んだ。

 「全部、全部話したっていいんだから!」

 たぶん、秋野さんがいっているのは、雪森くんがバケツで水をかけてやったとどこか誇らしげに放していたことについて。それなら、いってやるべきだと思う。

 「あんたがやったこと、全部!」

 雪森くんはロッカーからバケツを取り出すと、迷惑そうに耳の中に小指を突っ込んだ。

 「そうすれば、俺に弁明するチャンスを与えることになるけど」

 「は?」

 「騒げば騒ぐほど、俺が有利になるってこと」

 「い、いい訳なんかさせない!」

 「いい訳をするつもりはない。必要に応じて、おまえが抜き取った事実を加えるだけ」

 しばらく、空気がしんとした。

 どうして、どうして雪森くんはこんなに冷静でいられるんだろう。そしてどうして、秋野さんはこんなに雪森くんに押されてしまっているんだろう。これじゃあまるで、雪森くんが秋野さんに水をかけたのは正しいことみたいだ。

 「ふざけんな!」と秋野さんの金切り声が響く。

 「ぶすはおまえだ! おまえこそ、おまえこそほんとうのぶすだ!」

 雪森くんはなおも涼しそうな顔をして、それどころか秋野さんをおちょくるみたいに、へらりと両肩を持ちあげた。