バスが学校に到着して、みんなそれぞれに帰っていった。

友達同士で固まって喋り続けたり、
今からカラオケ行こうよって誘いあったり。

小高くんもやっぱりみんなに誘われていて、これから遊びにいくみたいだった。

バイバイを言う相手もいないから、黙って歩き出す。

最悪な一日の中に、いいこともあったって思える。

レジャーシートを受け取ってもらえたこと。
小高くんと話が出来たこと。

私の人生の中では花丸をあげてもいい。
嫌なことも塗り潰せる。

「待って」

もう癖になってしまっているのか、歩き出す時、私の視界はいつもアスファルト。

ただ人にぶつからないように、
不快にさせないようにってだけを思って歩いている。

誰かと並んで歩いたのは、今日が久しぶりだったかもしれない。

「待って」

「武田さん…」

横から腕を掴まれて、私は歩いていた足に急ブレーキをかけた。

「お弁当の後、真翔がどこに行ってたか知ってる?」

無表情。
感情は読み取れない。

「知ら…ない…」

「うそ」

「なんで…」

「あんたを追いかけて行ったじゃない。一緒にいたんじゃないの」

「…武田さん…」

武田さんの目を見た。
心臓がドキドキ鳴ってる。

なんにも知らないってシラを切って帰ってしまえばいいのに、武田さんの目を見ていたら「誤魔化すこと」が怖くなる。

「小高くんが…」

「真翔が?」

「武田さんは…最近おかしいんだって…」

「は?」

声のトーンが低くなる。
きっと怒ったんだ…。

「あ…の…武田さんは本当はこんな子じゃないって…なのに最近変なんだって。許すとか難しいかもしれないけど…本当は違うんだって言って…」

「違うって、何が?」

「分かん…ない…けど、でも私に怖いこと言ったりするの、本当は…、本当の武田さんじゃないのなら、や…やめて、欲しい…小高くんが悲しむ…」

「真翔が悲しむとかなんであんたが代弁すんだよ!」

握り締めた手の平に汗が滲む。
手の平に当たる爪の痛さでしか平常心を保てない。