来世なんていらない

二枚の絆創膏が小高くんの手から私の腕の傷に貼られた。

それからまたリュックをゴソゴソやって、マジックペンを取り出した。

「なんでマジック、持ってるの?」

「出先でペンとかハサミとかあればいいのになって思うことたまにあるじゃん。だからいつも一応持ってるんだ」

「変なの。遠足では絶対いらないじゃん」

「今いるじゃん」

ニッて笑いながら、小高くんはマジックペンのキャップを外して、貼ってくれた絆創膏のガーゼが付いてる部分に猫の顔を描いた。

「猫…」

「うん。かわいいでしょ」

「猫…きらい…」

「あ……あっはっはは」

嫌いって言われたのに、小高くんは楽しそうに笑った。
こんな風にも笑うんだって思った。

「ごめんね」

「…?」

触るよって言って、小高くんが私の額…いや、前髪に触れた。

触るよって言われたから、今度は怖くなかった。

「ねぇ、前髪切りなよ。目、悪くなるよ」

「そうだね」

始業式の日から結局切っていない。
自分でも本当に鬱陶しいなって思ってた。

「視力、いい?」

「うん」

「じゃあ俺の顔もはっきり見えてるんだ?」

「うん」

「そっか」

はっきり見えてる。
全部。

楽しそうにニコニコ笑う顔も、
安心させるように微笑む顔も、悪戯っ子みたいなニッて表情も、悲しそうに伏せる目も。
その時に、下瞼に影を作る長いまつ毛も。

「小高くん…は…?」

「まことでいいよ」

「え、でも…」

「そう呼んでほしい。まつり」

「えっと…まこと…は…?視力、いい?」

「ううん。悪い」

「そっか」

視力が悪くて良かった。私の可愛くない顔もぼんやりしか見えていないだろうから。

「でもまつりの顔は、はっきり見えてるよ」

「え!なん…で…!」

「裸眼なわけないじゃん。ちゃんと見えてる」

…最悪だ。

「前髪切ろ。絶対かわいいよ」

「…!?」

そういうことをサラッと言ってしまう真翔はやっぱりずるい。

誰も居なくて良かった。

明日になったらまた真翔を避けてしまうかもしれないけれど、今だけ。
ちょっとだけ、許されるかな。