来世なんていらない

「高い所はやっぱ涼しいね」

「うん…」

小高くんがベンチに座った。
その隣をポンポンってしてくる。

誰も居ない。
私達を知っている人達は、誰も私達のことを見ていない。

抵抗することにも疲れてしまって、大人しく小高くんの隣に座った。

「見せて」

「…何を」

「腕」

「やだ」

「お願い」

小高くんが、私の左腕にそっと触れた。
ジャージの上から。
魔法でもかけるみたいに、そっと。

「だめ?」

「嫌だ」

嫌だ、って私ははっきり言った。
小高くんは「友達」じゃない。

武田さんの言う通り。
私は彼らと友達になれるような人間じゃない。

私にとっては得体の知れない存在だ。
小高くんにとってもきっとそうだと思う。

私が何を考えているのか分からないだろうし、
私も小高くんが一体何を考えて、こんなにも私に構うのか理解出来ない。

「警戒、してるよね」

「…」

「誰にも言わない。ごめん、さっきちょっと見えちゃったんだ。だから九条さんが何をしているのか、少しは理解してるよ。俺に見せたくないって言うように、九条さんがそれを良くないことだって思ってることも…」

「そんなの分かんないじゃん…」

「分かんない?」

「本当は面白がってるかもしれないじゃん!誰かに構って欲しくて、秘密を抱えてることが面白くてやってるかもしれないじゃん!そんなこと分かんないじゃん!」

「そうなの?」

小高くんの目は真っ直ぐだ。
小高くんの目に見られると何も言い返せなくなる。
自分の虚勢なんかちっぽけに思える。

「違う…けど…」

「そうだよね?九条さんが取ってる行動が、九条さんを愉快にさせてるわけじゃないってことくらい、俺にだって分かるよ」

「そんなこと…」

「ね。だめ?誰にも言わない。俺と九条さんだけの秘密だ」

「…」

小高くんがジャージの袖からゆっくり指先を動かして、そっと手首に触れた。
冷たい指先。

少しずつ、手首から袖を上へとズラしていく。