「ごめん…ごめんなさい…まつり…ごめんなさい…」

「なんで急に帰ってきたの…なんで急にこんなこと言うの…」

「おばあちゃんの家でまつりがまだ赤ちゃんだった時の写真や映像を観てきたの。ママの記憶にも…もうすっかり無かった…私の腕の中でまつりが笑ってた…」

そんなことは全然記憶に無い。
アルバムや映像だって私は観たことも無い。

「写真が残ってたことも知らなかった」

「私とまつりのとの関係があまり良くないっておばあちゃん達は薄々気付いてたから…幸せな記憶は余計に混乱させるからって隠してたんだよ…」

私はそれでも知りたかった。
過去にだけでも愛されていた証拠があれば心を保てたかもしれないのに。

「私ね、もう戻れなくなってたの」

ママが放心状態みたいな、抜け殻になったみたいな声でぽつりと言った。

「戻れない?」

「まつりの父親はね、お酒を呑んでギャンブルやって、暴力をふるう人だった」

「…」

「妊娠した時に、これでやっと変わってくれるって思ったの。私も、赤ちゃんもきっと助かるって。でもあいつは変わらなかった。このままだと赤ちゃんを殺されてしまうって思って、必死にお願いした。別れてくださいって。家財道具もお金も何も要らない。だから今後絶対に私達に関わらないでくれ、この子には絶対に会わせないって。ちょっと時間はかかったけど、あんたを産む前には離婚が成立して、ママは本当にやっと…生きた心地がした…」

「それ以来本当にその人は会いに来てないの?」

「その人」と呼んだ実の父親に対して、私には本当に父親という感覚は無い。
産まれてから一秒も会ったことも無い、知らない男性だ。

「そうよ。初めの頃はどこですれ違うかも分かんなくてビクビクしてた。住んでた町には絶対に近寄れなかった。でも出産を終えて、段々と落ち着いてきて、殺したいくらい憎んだ男の子供でも…まつりは本当に可愛かった…私に残された唯一の生きがいだった…」

「そんな風に言ってくれたことなんてないじゃん!」

叫んだ私の声にママは目を見開いて、すぐに肩をすぼめた。