「おばあちゃんに呼ばれてね。ずっと無視してたんだけどあんまりしつこいから実家に帰ったんだよ。ママを責めないで、ママは悪くない。ママを怒らせたのは私だから。あんた、そう連呼してた。鮮明に声が聴こえたわけじゃない。でもあんたがずっと“ママは悪くない”って言ってるのは、はっきり分かった」

「必死だったから…」

「なんでママを庇うの。警察でも市でも相談に行けばあんたは保護される。おばあちゃんちでもいい。ママと離れたほうが幸せに…」

「それじゃダメなんだよ…」

ママの顔をこんな風に見つめたのはいつぶりだろう。
思い出せない。

抱き締められた記憶も、頭を撫でてもらった思い出も無い。

怒ってない、泣き出しそうな顔。
ママはこんな顔をしてたっけ。

「なんで…ここに居たらママはいつかまつりを殺してしまう。餓死か暴力か…いつかこの手でまつりを…」

「じゃあなんでそうなったの…。ずっと教えて欲しかった。なんでママは私を愛してくれないんだろう、なんで存在を認めてくれないんだろうって。この家にいることが地獄だった。ママの声を、足音を聞くことが恐ろしくて堪らなかった。死にたかった。生きてた証拠すら全部消えちゃえばいいのにって思った。だから私、私…こんなに…!」

左腕をママに突きつける。

ママに殴られた分、
言葉で生きる気力を奪われた分、
怒りも悲しみも絶望も全部ここに刻んできた。

こうまでして生きる意味なんて分からないまま、
それでも私はママに愛されたかった。

私を、ママの生きる理由にして欲しかったんだ。