「お待たせ」

体育祭が終わって、クラスの後片付けとか終わった後に、担任と話しに行っていた真翔が私に駆け寄ってくる。

校庭の朝礼台に座って待っていた。

陽が落ち始めていて、どんどんと濃くなっていくオレンジ色を見ていた。

「暑くなかった?」

「ううん。平気」

「賞状、月曜に先生が額で掛けといてくれるって。渡してきた」

「ほんと!よかった」

私達、二年三組の龍踊りは優勝した。

もう一生分泣いたんじゃないかってくらい、みんなで泣いた。

橋本くんなんか龍を抱き締めて泣いていて、
あんなに泣いていたみんな、橋本くんを見て大笑いした。

龍は橋本くんが、観に来ていたお父さんの軽トラックに積んで持って帰った。
工場に飾るらしい。

学校から出た賞金は、今度クラスでバーベキューをすることになった。

みんなが私にありがとうって言ってくれて、
私はその何万倍もの気持ちでみんなにありがとうって言った。

「帰ろうか?」

「うん」

朝礼台から降りた時、校門のほうに武田さんと千葉さんとグループの子達が歩いていくのが見えた。

「あ!ちょっと待ってて」

真翔に行って、私は走った。

「武田さん!」

武田さん達は振り向いて、立ち止まった。

「九条さん?どうしたの?」

走ってきて上がった息を整えてから、鞄からカラになったお弁当箱を取り出した。

うさぎ模様のランチトート。
お弁当箱にはタコさんウィンナーと目玉焼きのイラストが描いてあった。

武田さんのお弁当箱だ。

武田さんは今日の昼食にって私のお弁当も作ってきてくれていた。
約束をしていたわけじゃないし、すごく驚いた。

家族が見に来ている生徒も居たけれど、
私のママはもちろん来ない。

お弁当もまたおにぎりのつもりでコンビニで買ってきていた。

「お弁当、どうせ無いんだろうなって思って」

「うん、正解」

「またおにぎり?」

「うん」

「じゃあ交換しよう。私はお弁当もあるけど、おにぎりは帰ってから食べるよ」

「いいの?」

「交換でもしないとあんた遠慮して受け取んないでしょ」

武田さんはお見通しだ。

そう言って交換したお弁当は、言葉にするのは難しいけど胸がいっぱいになった。

生きてきた中で食べた、一番幸せなお弁当だった。