八月三十日。
今日は体育館に泊まりで作業をする最後の日。
夏休みの宿題はしっかり終わらせていたから、清々しい気持ちだった。
教室で昼間の作業を終わらせて、一旦うちに帰ってきた。
シャワーを浴びて汗を流す。
すぐに外に出たらまた汗をかいてしまうから、もうちょっと陽が落ちてから出よう。
今日は河原で真翔と待ち合わせをして一緒に学校に向かう約束をしていた。
話があるって言ってた。
なんの話だろう。
七時過ぎに家を出るよって、真翔にメッセージを送った。
すぐにスマホの通知音が鳴った。
きっと真翔からだ。
すぐにメッセージを読みたいのに、ほとんど同時に玄関のドアが開く音がした。
「まつりー、帰ってんのー?」
ママだ…。
どうして?
今朝、今日の夜は帰らないって言ってたのに。
「ママ?」
玄関でママが突っ立ったまま、肩に掛けた小さいバッグをプラプラさせている。
「居るんなら早く来なさいよ」
「今日は帰らないんじゃなかったの?」
「帰ってきちゃいけないわけ!?ここは私の家よ!」
「そんなんじゃ…」
ママのヒステリーが始まる前に会話を終わらせたかった。
でもママが帰ってきてしまったら、きっともう外には出られない。
今までの泊まりも、ママが居ない日を狙って参加していた。
一度だけ、予定外に帰ってきたママに、翌日酷い目に遭わされた。
「出掛けるわよ。あんたに用があって寄っただけ」
「あ…そうなんだ…ごめんね。何…?」
ホッとしたのも一瞬だった。
「あんたの通帳どこ?今朝も探したのに見つかんないのよ。だから今わざわざ帰ってきたの。急いでるから早くして」
「通帳…?」
ママはスマホを操作しながら、イライラした目で私をチラッと見て、またスマホを触る。
カツン、カツンって、ママがパンプスの先で足元を鳴らす。
「通帳って…なんで…?」
「あーもう!うるさいわね!いいからさっさと持ってきなさいよ!あんたでもちょっとくらいは貯金してんでしょ!?」
あの貯金は私の生命線だ。
まだ二十万円くらいしか貯まってないけど、ずっと前から祖父母がくれるお年玉とか、ママが気まぐれでくれるお金、たまに手伝わせてもらっていた、バイトとも呼べない、近所のお店のお手伝いなんかをして貯めてきた物だ。
祖父母は、ネグレクトまでは気付かなくても、ママの気性にちょっとは気付いていたから、いつもお年玉は直接通帳にこっそり入金してくれていた。
ママがいつ完全に私のことを見切ってもどうにか出来るように貯金していたのに。
ママには通帳の存在は話したことないのに。
「通帳のことなんで知ってるの…」
「あははは。バレてないと思ってた?この前さー、あんたがコンビニのATMに居るの見たんだよ。びっくりしちゃった」
「あれは…渡せない…」
「何言ってんの?どうせ私があげたお金も入ってんでしょ?じゃあ私の物なんだから返しなさいよ」
「でもおばあちゃん達がくれたお年玉とかもあるし…!」
「ほんっと生意気になったね!?いいから早くしろよ!」
「何に遣うの…」
「関係ないだろ。早くしてって!」
ママが肩からバッグのチェーンを下ろして、私に振り下ろした。
顔に当たったバッグはエナメル質で、金具のロゴが付いていて痛かった。
頬骨の辺りに鈍痛が広がった。
今日は体育館に泊まりで作業をする最後の日。
夏休みの宿題はしっかり終わらせていたから、清々しい気持ちだった。
教室で昼間の作業を終わらせて、一旦うちに帰ってきた。
シャワーを浴びて汗を流す。
すぐに外に出たらまた汗をかいてしまうから、もうちょっと陽が落ちてから出よう。
今日は河原で真翔と待ち合わせをして一緒に学校に向かう約束をしていた。
話があるって言ってた。
なんの話だろう。
七時過ぎに家を出るよって、真翔にメッセージを送った。
すぐにスマホの通知音が鳴った。
きっと真翔からだ。
すぐにメッセージを読みたいのに、ほとんど同時に玄関のドアが開く音がした。
「まつりー、帰ってんのー?」
ママだ…。
どうして?
今朝、今日の夜は帰らないって言ってたのに。
「ママ?」
玄関でママが突っ立ったまま、肩に掛けた小さいバッグをプラプラさせている。
「居るんなら早く来なさいよ」
「今日は帰らないんじゃなかったの?」
「帰ってきちゃいけないわけ!?ここは私の家よ!」
「そんなんじゃ…」
ママのヒステリーが始まる前に会話を終わらせたかった。
でもママが帰ってきてしまったら、きっともう外には出られない。
今までの泊まりも、ママが居ない日を狙って参加していた。
一度だけ、予定外に帰ってきたママに、翌日酷い目に遭わされた。
「出掛けるわよ。あんたに用があって寄っただけ」
「あ…そうなんだ…ごめんね。何…?」
ホッとしたのも一瞬だった。
「あんたの通帳どこ?今朝も探したのに見つかんないのよ。だから今わざわざ帰ってきたの。急いでるから早くして」
「通帳…?」
ママはスマホを操作しながら、イライラした目で私をチラッと見て、またスマホを触る。
カツン、カツンって、ママがパンプスの先で足元を鳴らす。
「通帳って…なんで…?」
「あーもう!うるさいわね!いいからさっさと持ってきなさいよ!あんたでもちょっとくらいは貯金してんでしょ!?」
あの貯金は私の生命線だ。
まだ二十万円くらいしか貯まってないけど、ずっと前から祖父母がくれるお年玉とか、ママが気まぐれでくれるお金、たまに手伝わせてもらっていた、バイトとも呼べない、近所のお店のお手伝いなんかをして貯めてきた物だ。
祖父母は、ネグレクトまでは気付かなくても、ママの気性にちょっとは気付いていたから、いつもお年玉は直接通帳にこっそり入金してくれていた。
ママがいつ完全に私のことを見切ってもどうにか出来るように貯金していたのに。
ママには通帳の存在は話したことないのに。
「通帳のことなんで知ってるの…」
「あははは。バレてないと思ってた?この前さー、あんたがコンビニのATMに居るの見たんだよ。びっくりしちゃった」
「あれは…渡せない…」
「何言ってんの?どうせ私があげたお金も入ってんでしょ?じゃあ私の物なんだから返しなさいよ」
「でもおばあちゃん達がくれたお年玉とかもあるし…!」
「ほんっと生意気になったね!?いいから早くしろよ!」
「何に遣うの…」
「関係ないだろ。早くしてって!」
ママが肩からバッグのチェーンを下ろして、私に振り下ろした。
顔に当たったバッグはエナメル質で、金具のロゴが付いていて痛かった。
頬骨の辺りに鈍痛が広がった。