ナプキンで口元を拭い、席を立って、自室に行く。部屋に入ると、ハーッと息を吐いた。
「お疲れのようですね。また旦那様になにかお小言を?」
 部屋で出迎えたグレースが私を見て気遣った。
「ええ。いつものことよ。心配しないで。ところで、ドレスを教会に寄付しようと思うんだけど」
「それはいい考えですね。マリア様が改心されて、グレースは嬉しいです」
 私の提案を聞いて笑顔で賛成する。
 マリアはドレスを百着くらい持っているけれど、どれも一度しか袖を通していないらしい。公爵令嬢だからって、浪費しすぎだ。
 でも、そうすることでしか、マリアは心の寂しさを埋められなかったのかもしれない。
 今朝の朝食の時みたいに、親に怒られてばかりいたら辛いよね。
「教会には孤児院も併設されていますし、なにかお菓子を作って持って行きましょうか?」
 グレースの話を聞いて、彼女の腕をガシッと掴んだ。
「私も手伝うわ。アレックス様にもなにかお礼をしないとって思っていたの」
「え? マリア様も作られるのですか?」
 意外そうな顔をする彼女にニコッと微笑む。
「ええ。やっぱり心を込めてお礼をしたいじゃない?」
 公爵令嬢がお菓子作りなんて変に思われるかもしれないけれど、もうすでに私の評判は地に落ちているし、家族にどう思われたっていい。
 アレックス様に婚約破棄を断られた以上、私が斬首刑を回避するための道はもう家出しかない。
 ここを出て、どこか修道院で静かに暮らす。
うん、うん。目指せ、修道女。
 そのためには教会とのパイプを作らないと。
「あと、グレースの服を貸してくれない?」
「それは構いませんが、どうして私の服が必要なのですか?」
「あまり目立ちたくないの。家族にも教会へ行くことは内緒にしてくれない? 教会にはキースとふたりで行くから」
 家出することを家族に悟られてはいけない。
グレースにすべて話せればいいが、優しい彼女は家出する私についていくと言い出しかねない。
「大丈夫ですか? 私もご一緒した方が」
「それだと私の不在がすぐにわかってしまうから、グレースにはここにいて、私が寝込んでいることにしてほしいの」