―― 二〇二二年 七月十八日 月曜日 ―― 


 旅行最終日の早朝。

 わたしは目覚ましのアラームよりも先に起きて、美輝の寝顔を眺めていた。

 長いまつげ。

 綺麗にとおった鼻筋。

 すやすやと寝息を立てている美輝の寝顔は、アンティークドールのように整っていて美しい。

 その寝顔をしばらく眺めて、わたしはそっと布団から抜けだした。


 歯磨きを済ませ冷蔵庫からお茶を取り出して喉を潤す。

 夜が明けきらない薄暗い空は、まるで違う世界に飛ばされたかと錯覚するような静けさに包まれている。

 結弦はまだ眠っているだろうか?

 スマホの画面をタップして、かけ慣れた電話番号を呼び出す。

 こんな時間に迷惑かな?

 でもちょっとだけ、結弦の声が聞きたいな。

 少しためらいがちに通話と書かれた表示をタップした。

 コールが長くなる前に切るつもりだった。

 にも(かか)わらず、一度目のコールを終える直前。


『……もしもし』


 電話越しの声に、安心と同時に緊張が襲いかかる。

 寝起きだったのだろうか?

 その声はいつもより少し曇っていた。