香が死んだ。
香りが消えた。
そんなのは嘘だ。
きっと私は悪夢を見ているんだ。


「歩」


修に声をかけられても返事をすることができず、私は教室を出て自分の部屋へと向かった。
今日はまだなにも食べていなかったけれど、食欲はとっくに失せていた。

それにこれは夢だから、なにも食べなくたって平気なはずだ。
ふらふらと壁にぶつかりながらようやく部屋にたどり着いて、布団に潜り込む。
きっと、もう1度ちゃんと眠り直せば現実に戻ることができる。

だってここは悪夢の中なんだから。
夢から覚めれば香がいるんだから……。