どれだけ辛くても、悲しくても、生きていく者は最低限のことはしなくちゃいけない。
食事はその最低限の中に入っているものだ。


「先生も、潤も、彩も花も……みんな、もうこれ、食べられないのに!」


香が手の中でパンを握りしめた。
ギュッと形を崩したパンは居心地が悪そうだ。


「大丈夫だよ香。私達はみんなの分まで生きていかなきゃいけないんだから」


それは自分へ向けた言葉でもあった。
修に励まされて、それでも納得できなかった自分への言葉。
たとえここから出ることができなかったとしても、それでも生きている限りは生命活動を続けるべきだ。
弱っている香を目の前にすると、強くそう感じることができた。


「明日にはまた命令が書かれてるのかな。それで、また誰かが消えるのかな」


香が独り言のようにぶつぶつと呟く。
きっとそうなるだろう。
ううん、明日こそなにかが変わるかも知れない。
私は何も答えられず、ただ香を抱きしめ続けていたのだった。