教室でずっと泣きじゃくっていた香のことが心配で、私は夜になると香の部屋を訪れていた。
電気もつけていない暗い部屋で香はひとり、うずくまっていた。


「香、大丈夫?」


そう声をかけても顔を上げてくれない。
今日は他の子たちもみんな夕食を食べる気分じゃなくなってしまって、それぞれの部屋に引きこもっていた。


「お腹すいてない? 菓子パンがあったから、もらってきたの」


できるだけ明るい声を出して、菓子パンを香に差し出す。


「ジュースも持ってきたよ。本当に、食べ物だけは沢山あるよね。山の中の合宿所だから、こういうものしか娯楽がないのかなぁ?」


香の横に座り込んで自分の菓子パンを開ける。
チョコレートの甘い香りがふわりとかおってきて、なくなっていた食欲が少しだけ復活するのを感じた。
パックの野菜ジュースにストローを突き刺して一口飲むと、甘いリンゴの味が広がった。
あれだけ走らされてなにもかもがすり減ってしまった体に染み込んで行く。


「……美味しそうだね」


香がようやく弱い声を出した。


「香の分もあるよ」