果実の熱病/その2
剣崎



麻衣と競子には、とりあえずバスタオルで髪や首を拭わせていた

「…そっちの子は、何という名かな?」

相馬会長は優しい口調で、フツーの女子高生に尋ねた

「横田競子と言います。滝が丘高校の一年です」

「ほう…、麻衣とタメか。はは…、こりゃいい…」

ふう…

会長、この子を気に入ってる…

俺にはすぐにピンときた

というより、会長の顔には、そうはっきりと書いてあったしな(笑)


...


「ハハハ…、ずいぶんとハデにやったそうだな、二人とも…。川の中で取っ組み合いとは、うん…、元気でいい」

この時点では、さすがに麻衣もだいぶ興奮が収まっていたようで、何とか普通に”話”を進められそうだ…

「会長…、二人のサシのケンカは五分でした。20分超、互いに殺すことも厭わぬ気迫で最後まで…。それ以上は危険と判断してここへ連れてきました。今夜の段階では、こいつらのグループ間では決着つかずという認識のようです」

「うむ…。しかし麻衣、いいケンカ相手ができてよかったじゃねーか。なあ…、ハハハ…」

麻衣め…

物凄い目つきで会長を睨んでやがるぞ…(苦笑)

要するに麻衣にとっては、よっぽど、この横田って子に心を焚きつけられるものがあるのだろう…

だが…、それが南玉連合のトップや幹部クラスではなく、組織の部外者だったこの子ってところがなんとも首を捻らざるを得ない


...


「…よし、剣崎、この二人にやらせたらどうだ?」

「はあ…?会長、それはどういうことでしょうか…」

「この俺だって、この都県境がよう…、気性の激しい女どもがごった返す地だってことは承知してる。街を歩けば、猛った娘ごはいくらでも見かけるしな。ましてや、この二人はこの年高校生になったばかりの新入生だ。今、急に都県境全部のテッペンって訳にはいかんだろう。ここは、然るべきバランスをとって組織を再編ってのが妥当だ。有紀ちゃんもいなくなったんだから、新しい形でな。その上で、この二人には”力”を与え、ぶつかり合わせればいい」

会長は実によく、この都県境のガキ事情を理解していた

この地に赤塗りという触れ込みで、猛る少女たちを覚醒(一斉発熱)させた紅丸有紀が、この度結婚し渡米した今、既存フレームの再編は不可避と明確に捉えていたんだ…


...


「麻衣…、せっかくこんなとびっきりのライバルと出会えたんだ。この後もよう、この子と徹底的にやり合ってみたらどうだ…」

「この女にそんな根性ないですよ。今日限りで終われるから、思いっきり来れただけだよ、所詮!そーだろが、テメー!」

「ふざけんな、テメー‼やってやるって、これからも…。決着つけてやる、お前とはよう…!」

恐れ入った…!

ここまでの、生々しき幼き猛る女同どうしのぶつかり合いは、まずないだろう…

...


俺はふと思った!

この二人、運命の出会いだったんじゃないのかと…

そして…!

「…なら、どうだ、お嬢ちゃん…。この麻衣と”地獄まで”遊んでみないか…?」

この瞬間、相馬会長の獣のような両眼が鋭く光ったのを、俺は見逃さなかった…