果実の熱病/その1
剣崎


ふう…

とうとうこいつら、車内でも、総本部に到着するまでギャアギャアやってたわ

こっちは二人の間に入って服が水浸しだ

車から降りると組の連中、俺の乱れた装いに目が点になってるしな…(苦笑)

さあ…、二人を降ろして会長のところに連れて行かなくては…


...


「お嬢さん方、到着しましたから車を降りてください…」

能勢も手慣れた演技が板についてきたわ、はは…

まず俺が横田を車の外に出すと、素早く抱え連れて会長の待つ奥の間へ小走りした

「…麻衣お嬢さんを車から奥へお連れしろ!」

後ろでは、能勢が本部付の若者に指示を出してる

しかし、今俺の腕の中にあるこの少女…

こう身近に接しても、ごく普通の高校生の娘に過ぎない

しかし、さっきまであの川原で麻衣と殺し合い覚悟の死闘をやってのけたのは、間違いなくこの子なんだ

何とも、不思議な少女だ…


...


「…いいか、ここには相和会の会長がおられる。言うまでもないが、ここで麻衣と取っ組み合いなど厳禁だ」

「わかっています…」

どうやら、こっちの子は少し落ち着を取り戻したようだな

「では、中に入るぞ…」

ついに連れてきてしまった…!

普通の女子高校生をやくざの根城へ…

会長に引き合わせるに値すると、俺自身が判断して…

この時!

さすがに俺は、事の重大さを自覚して鼓動が激しくなっていた…


...


「会長…、ただいま連れてまいりました。麻衣もすぐここへ来ます…」

「おう…、待ってたぞ」

「…じゃあ、そこへ座れ」

俺は会長の約3M斜め前に横田競子を座らせた

黒いTシャツ姿の会長は、胡坐をかいて競子をじっと眺めている

それはまさしく、品定めしているようだった

うーん、思い出す…

2か月半前にここで麻衣が会長と対面した”あの夜”を…


...


「お嬢さんをお連れしました…」

「よし、ここで会長と話をする間、能勢はこの子たちの着替えを手配しとけ…。それと病院の方もな」

「はい、さっそく…」

能勢が出た後、室のふすま戸を閉め、入り口で突っ立ている麻衣に声をかけた

「お前はこっちだ。二人並べて、また組合いされたんじゃかなわんからな…」

会長はクスクスと笑っていたよ

やはり機嫌はいい…(苦笑)