そもそもレイルを巻き込んだのはオリヴィアの方である。レイルが謝ることではない。

 オリヴィアは首をゆっくりと横に振った。

「幻滅なんてするわけないよ」
「オリヴィアさん……」

 レイルは泣きそうな顔で、オリヴィアを見下ろす。

 純粋過ぎるその瞳に、オリヴィアは困ったように笑う。こちらが恥ずかしくなるくらい、まっすぐな瞳だった。

(私、こっちの世界では意外と見る目あるのかも)

 もし、また転生の機会があるのなら、今度こそレイルのような、心から自分を愛してくれる人と結ばれたい。

 オリヴィアはそっとレイルの手を取った。触れた瞬間、レイルの指先がぴくりと跳ねる。 
 
「私のことは気にしなくていい。だから、レイルくんはもうお城に戻って。牢にいる私の様子を見に来たら、魔法で眠らされて逃げられたって言えばいい」
「そんなの嫌だ」

 まるで駄々っ子のようにレイルが首を振る。
 
「私は悪役だからこれでいいの。これからはのんびり気侭に、なんとかして生きていくわ」

 レイルの胸をそっと押し、起き上がる。そのまますっと立ち上がると、歩き出した。

 こうなったら、森の奥へ行こう。誰にも見つからない場所で、しばらくやり過ごすしかない。

 しかし、背後からパッと手首を掴まれ、オリヴィアの足が止まる。
 驚いたように振り向いた瞬間、オリヴィアの身体はレイルに強く抱き寄せられていた。
 
「……オリヴィアさん、僕……やっぱり諦められない」 
「レイ……」
「このままオリヴィアさんのことを攫わせてもらう」

 次の瞬間、ぶわっと突風が吹いた。瞬きのうちに空へ身体が舞い上がる。レイルに抱き上げられ、オリヴィアは身を固くした。

「わっわっ!」
「大丈夫。僕に掴まっていて」
「レイルくん……飛行魔法使えたの?」

 驚いてレイルを見上げる。

 レイルは魔法を使えないはずだ。飛行魔法なんて、学校の上位の学生でも難しいはず。

(レイルくん、何者……?)

「レイルくん……あ、あの」

 レイルの、長い銀髪を括っていたゴムが風に攫われる。その瞬間、眩しいほどの銀髪が揺れた。

 まるで天女のようなその姿に見惚れていると、レイルがパチッとウインクをした。
 頬が熱くなる。
  
「オリヴィアさん」
 
 レイルは息を呑むほど美しい笑みを浮かべて、オリヴィアを見下ろした。

「――眠れ」

 直後、キィンと耳鳴りがして、オリヴィアは意識を手放した。