私の家は普通の家とはまったく違う。

スーツを着た強面の人が出入りして、皆は

私のことを『姫』だとか『お嬢』と呼ぶ。

父は有井組の9代目総長、有井龍一(ありい

りゅういち)。


組の皆は、私にとても優しく接してくれる。

けれどあの時のことは忘れることができな

い。中学校に登校したあの日。教室に入っ

て「おはよう」とあいさつしてもまるで私

が最初からいなかったみたいに、空気のよ

うに誰も反応しない。

額につたう汗、背中が冷や汗でじっとりと

する感覚、まるで床に接着されたみたいに

ずっしりと重くて動かない足。何とか席に

着いて1日授業を受けたものの、学校が怖

くなってしまった。

今でも忘れることはない。


極道の娘じゃなかったらなんて考えてしま

っていた。そんな自分が今でも嫌だ。