「今、友達のとこに泊まってるのは賢明な判断だね」

「はい、そうするしかなかったんですが……」

「でも相手は女性だから、完全に安全とは言えない。よって佐伯さんは今日からここに泊ってね」

 サラリと決定事項を告げられて、私は固まった。成瀬さんはにっこりと笑う。

「え?」

「一人で外出も禁止ね」

「まま、待ってください、え、でも!」

「あー急で困るって言うなら、俺がその沙織さんって人の家に泊まりに」

「私が成瀬さんを連れて帰ったら沙織は卒倒しちゃいますって!」

「まあそうだよね、突然知らない男が泊まるっていうの嫌だよね普通」

 知らない男などではないのだが。ややズレているが突っ込むのはやめておこう、沙織の家に成瀬さんを連れていくのは却下だ。

 彼が言っているのは分かる、一人よりは沙織といた方がいいけど、沙織だって女の子なんだから力も弱い。成瀬さんがそばにいてくれた方が安心、というわけだ。

 でもでも、急展開すぎじゃないだろうか!? たった今両想いが判明したばかりなのですが!

「で、でも準備が何もなくて、成瀬さんの家特に物がないし」

「一緒にその友達の家に取りに行こう。明日はちょうど土曜日だしね、この土日でやれることはやろう」

「やれること?」

 首を傾げると、成瀬さんが意味深な笑みを浮かべた。プライベートの成瀬さんというより、仕事中の成瀬さんの顔にみえた。






 言われた通り、二人で沙織の家に荷物を取りに行った。移動中、彼から細かな質問をされ、正直に答えた。今回ばかりは高橋さんの名前も出し、彼女に言われた様々な発言まで教えてしまった。

 インターホンを鳴らして沙織を呼び出すと、扉が開いた瞬間彼女は時が止まったように固まった。そりゃそうだ、私の隣りには成瀬さんが立っていたのだから。

 しかしすぐに状況を察したのか、驚きでふらふらしつつも沙織は私に親指を立てた。やったね、ご飯くんと結ばれた! おめでとう! というところだろうか。

 成瀬さんは丁寧にあいさつをして(勿論仕事モードで)簡単に沙織に状況を説明、荷物を取りに来たことを告げた。成瀬さんが私と大和のことを勘違いしていたことを、沙織はどうやら感づいていたようだった。もしかして大和とのキスを見られたかも、というところまで予測していたらしい。探偵か。

 私が荷物をまとめている間も、何やら二人で色々と話し込んでいるようだった。沙織のアパートを出た直後には、彼女から変なスタンプと共にメッセージが届いていた。

『成瀬慶一ゲットおめでとう!! 話せばわかった、これはいい男!
これで君もあの元カレからの呪縛に悩まなくてすむ! 今夜は燃えるね(ハート)』