「───じゃぁ、母さん!いってきます!
ヤバッ、もうこんな時間じゃん!」
隣の家の奴も、寝坊した生徒?だろうか。そんな、考えが頭をよぎり右隣の家のドアに目をやる。

なんか、聞いたことある声だな。
でも、この家ってつい最近引っ越して来た家だったような、、、。

と考えを巡らせていると、結花の視界には結花の思考を停止させるのに十分な、非常に驚くべき光景が飛び込んできた。

向こうも、結花の方に目を向ける。

「「え?」」

双方(そうほう)から、間抜けな声を上がる。

隣の家から出てきたのは昨日の夜、結花が会った人物だった。
綺麗な青い瞳が、登り始めた日の光を反射してキラキラと輝いている。そんな目を見開き、さらにはパカッと開けて一向に閉まらなそうな口を見るとその人物───丘星清理が相当驚いていることが(うかが)える。

一方、結花はというと口元を歪ませて、嫌悪の視線を清理に送る。

「そんな嫌そうに見なくても、、、」
清理は我に返りいきなり、しゅんとして最愛の飼い主に捨てられた大型犬のような雰囲気を纏う。

そして、結花も自分が非常に悪い態度を相手にしていたことと、遅刻するかもしれないという事実に気付く。

「あ、あぁ、ごめんなさい!時間が無いんで行きます!」
「あ!そうだ!ヤベッ!俺も急がないと!!」

そんなお互い、独り言かも分からない声を上げ、全力で走り出した。


結花が先に走り始めたはずだが、やはり体力の違いだろうか、清理は軽々と結花に追い付く。結花も女子の中ではそれなりに体力がある方なのに。

「先に行けば良いじゃないですかッ!!」
「いやー、一晩の付き合いがあったのでやっぱり見捨てない方が良いのかなって─────」
「誤解を招くような言い方しないッ!」

そんな、漫才とも捉えることが出来るやり取りをしながら2人はひたすら走る。