湿度を含んだ暖かいというよりは暑いと表現した方が適している風が頬をなでる。
それは、新緑の時期である初夏を過ぎ、夏の暑さが本格的になってきた頃。

「丘星清理(おかぼしせいり)。入ってこい」
そう呼ばれ、俺は教室に足を踏み入れた。
〖真新しい〗と感じさせる教室だ。
まぁ、それもそうだろう。
2年前、出来たばかりの私立高校なのだから。

俺の名前を呼ぶのは、俺の新しい担任である。
つまり、俺はこの学校に転校してきたのだ。

教室に入った瞬間、女子からは歓喜から成る悲鳴、
そして、男子からは、嫉妬と嫌悪が入り混じった表情で迎えられる。

(前の学校でもそうだったけど、やっぱやだなこの雰囲気)

しかし、その中でただ一人、それらとは全く違う反応をする人物がいた。

女子生徒だ。
彼女は、綺麗な黒髪を顔の前方に垂らしている。
きっと常人が見たら、どこにでもいるありふれた女子だが〖黒真珠〗を連想させるような凛々しさと美しさを感じた。
なにか体調が悪いのだろうか。
胸元を息苦しそうに掴んでいる。

そう思った瞬間、
彼女の髪に宇宙を見たような感じがした。

訂正しよう。彼女は、〖美しい〗



(『あぁ。やっと会えた』)

一瞬驚きはしたものの、
俺は彼女の雰囲気が、
〖昔〗と変わっていない事に
心から安堵した。