短く深呼吸する
「成績が全てですか?」
「…え」
「お父さんが求めているのは成績だけですか」
「…な、にを」
「だったらロボットでも育てたらどうですか?兄さんのクローンでも作ったらいかがです?」
「ゆき…」
「成績成績成績せーせき…まじうざいです」
確かに社会をうまく生きていくためには成績は必須だ
学歴や家柄から人の価値を見出してしまうのは仕方のないことだ
でも感情のままに突っ走ってみたり、好奇心の赴くまま、人と関わってみたり冒険をしたりすることで
学歴なんかより、もっと大切で有意義な新しい発見ができる
…今日私は
偽恋人と手を繋いで帰った
信じられないくらいドキドキしたし、信じられないくらい暖かかった
今までこんなに心臓が早く動くなんて知らなかった
こんなこと教科書に載ってないし、先生も教えてくれない
これはいわゆる人生経験という奴だ
私のクソッタレた白黒の毎日に、突拍子もない提案で始まった、このふざけた偽恋人という関係が
色をつけたんだ
なのにこのクソジジイはその色を馬鹿にした
私が気に入っているこの色を塗り潰そうとした
嫌いだ
「嫌いです」
大嫌いだ
「大っ嫌いです」
……
ああお母さん
なぜあなたはこの人を選んだんですか
この人はあなたにぬくもりや新しい色を教えてくれたんですか?
なんでこの人の元に私を置いていなくなっちゃったんですか…
教えてください
「お母さんが…生きていたらよかったのに」
「…っ、雪音」
父親のキモい声を無視して私は家を飛び出した


