偽恋人の恋愛事情




「雪音さん、本当にごめんなさい」

上機嫌なお父様の後ろの席でこそっと春正さんが言う

車の中には爆音で音楽が流れているので私たちの小声はおそらく聞こえないだろう


「春正さんのせいではないですよ」

…とは言っても

本当にどうしようか



いやもうこうなったら

「もう夕食をご一緒して帰った方がいいのでは?」

いっそのことお父様の気が済むまでお相手をしてしまった方が変に断り続けるより楽かもしれない


「…いや甘いですよ、雪音さん。父さんはうんざりするほど強引な人なんです。僕の反対を押し切ってこんなお見合いまでセットするような人間だから」

ま、まあそれは…

「しかもなんか今日は拍車かかってます…おそらく雪音さんを見て、絶対に壇家に引き入れようと思ったのでしょう」




「雪音さんは父さんにとって僕の相手として理想的な人間なんです。成績優秀で礼儀もあって、何より美人で品がある。逃す理由がない…そこに雪音さんのお父さんの会社まで加わってくるとなると…」

ぞくり


「おそらく…どんな手を使ってでも雪音さんを手に入れようとするはずです」

ま、まじで?

さっき会ったばっかなのに?


「…早いとこ逃げないと大変なことになります。瞬きしてる間に結婚式です」

「マジですか」

「なんとか逃げ出しましょう。ご家族に連絡はできますか?」


でき…ないことないけど