昨夜



「行け!」


ある程度、佐賀と距離を取った…

今なら


俺の前で動転している彼女の肩を押し出して部屋へ向かわせた


前方の佐賀が俺から離れた雪音に向かって手を伸ばす

でも雪音は足が遅いわけでも鈍臭いわけでもない

華麗に走り抜け、リビングから消えて自分の部屋へと向かっていく


雪音の方向へは行かせまいと、佐賀の目の前に立ちはだかる

佐賀は俺を越えようとするがなんとかバスケのディフェンスみたいに行く先を防ぎ続ける


「落ち着け佐賀!お前おかしいぞ!」

「……あー…行っちゃった」

佐賀は見たこともないくらい気怠げな目をして光のない瞳で俺を睨みつける


「偽恋人なんだろ?だったら他の人間でもいいだろ?なあ楓、頼むよ…雪音を俺にちょうだい」

…そんなの


「嫌だ」

「なんで」

「雪音じゃないとダメなんだ」

「…俺だってそうだ。雪音じゃないとダメ…お前なら引く手数多だろ?譲れよっ!」


正面突破しようというのか俺に突っ込んでくる

だけどスポーツを長くやっていたのは俺の方だ

力もスピードも俺には勝らず投げ返される