文化祭と体育祭が終わったら、残るは受験。
 大学入試の過去問を解くことも増えたし、模試だって増えた。
 3年生のほとんどはクラブを引退していたし、私は元々帰宅部だから、特に変わったことはない。

 勉強、勉強。また勉強。

「はぁ、やだなぁ。毎日テストだよ」
「漢字とか、英単語とか、もう、嫌……」

 琴未は机に突っ伏して、はっと顔を上げた。

「待って、今、10月? 1、2、……センター試験まで3カ月しかないよ! やば!」

 そんな会話が学校のあちこちで交わされて。
 3年生の表情は、みんな硬くて。
 模試を受ける度に、結果に溜息をついて。
 先生に呼び出されて、落ち込んで、励まされて。

「心臓に悪いよね……」
「うん。早く終わって欲しいなぁ。大学に入る前に、思いっきり遊びたい!」
「そうだ、受験終わったら、遊びに行こう!」

 そんな話をして、気持ちを切り替えて。
 勉強を思いっきり頑張れた! 日もあれば、全然気合が入らなかった日だって、もちろんあります……。


 受験校を決めて、願書を取り寄せて。
 書いて、送って、あとは本番のみ……。

 なのに。
 勉強に集中したいのに。

 時々視界に入って来る弘樹のことが、頭から離れなかった。
 私の本当の気持ちと。
 牧原君が勧めてくれてることと。
 琴未が感じてることと。
 弘樹の行動の意味と。
 どうしても、頭から離れない。

 でも──、私にはどうすることも出来ない。
 だから、答えから逃げて勉強したいのも事実。


「またボーっとしてたね?」

 休み時間、すぐに琴未が言いにきた。

「受験も近いんだから、本当に気合入れないとダメだよ」
「わかってるよ……でも……」

 受験より、弘樹との関係のほうが難しい問題。
 奈緒がいたら、こんなに悩まなくて良いのに──。

「やっぱり、一旦忘れた方が良いんじゃない?」
「忘れる……難しいよ……」

 話すことは少なくても、弘樹はクラスメイト。嫌でも声が聞こえるし、話しかけられることもある。
 弘樹を見たら、必然的に奈緒のことも浮かんでくる。
 それに弘樹は今も奈緒の遺品──2人の想い出のものを持ち歩いてる。2人の間には、入ってはいけない。

「忘れられないし、奪えないし。……なんでクラスメイトなんだろう……」

 最初は、落ち込んだ弘樹を元気付ける予定だった。
 でも今は、弘樹の存在が一番厄介。
 もちろん、嫌いじゃない。
 好きかと聞かれれば、はい、と即答する。
 だから、厄介。


 そして、決めた──必要以上に弘樹と話さない。

 まず、受験がすぐそこまで迫ってるから、勉強する。
 休み時間も勉強するか、琴未と難しい顔で話す。
 帰りも、弘樹に捕まらないようにして、月末のお墓参りは冬休みに入ってるから学校には来ない。
 メールも電話も、最近は全然届かないから。
 弘樹も同じ受験生だから、接触は減る。はず。