「あのさ、」

誰もいない校舎裏。
日陰になっていて、少し寒い。
寒い原因はそれだけでは無い。

ナナミは校舎の壁面に手をつけ、私を逃がさないようにしている。


ナナミの低い声。
付き合うことになった日の、なんとも言い表しようのないあの感じに似ていた。


「最近ずっと私を無視して。バイトでも。お昼もいないし。どういうこと?私たち、付き合ってるんだよね?…」

ズラズラと言いたいことを一方的に言ってくる。
なんで、なんで…


「私が、悪いの…?」


私は睨みつけるように、ナナミと目を合わせた。
ナナミは壁面につけていた手を、ゆっくりと下ろしていく。
そして視線を合わせるのをやめた。


「私、何か、した?」

スラスラと話すはずのナナミが、言葉につまりながらそう言った。
その声を聞いて、私は何も言えなかった。

何で分かってくれないの?

被害者ヅラ、しないでよ…


きっかけは些細なことだった。

それなのに…



「別れましょう。少なくとも今は一緒に居たくは無いです。」


私の口から出た言葉は、こんなものだった。

私といないときのナナミは、たくさんの人に囲まれて、その中心にいて、
私といる時は、いつも2人っきりで、

私といない時の方が、楽しそうに見える。


きっとそういう子なんだ。元は。