『お久しぶりです。体調が優れなくて今回は帰ることが出来ません。ごめんね。』


お母様は昔から病弱だ。
小さい頃から体が弱く、学校にもまともに通えていなかったと亡くなったお祖母様から聞いたことがある。
流石の良家の娘でも学歴がなくては誰も嫁として迎え入れてくれなかった中、会社の繋がりでお父様が妻として迎え入れてくれた。

お母様はお父様のことを悪く言ったことは1度もない。
寧ろ、『私を妻にしてくれた恩人』と言っていた。

そんな優しく心の綺麗なお母様が体調が悪いのに、お父様は呑気だ。
お父様の目には金や自分の名誉のことしか映っていないんだろう。
今回帰ってきたのだって、娘の結婚のため、スビンに良い顔をして企業を発展させるため。


人情なんてゼロ。
本当に自分のことしか考えていないんだ。


私は時計を見る。
きっとあちらは朝だろう。

私は受話器のマークのところをタップした。


『…ニカ?』
「お母様…お久しぶりです」


私の家は基本あまり連絡をとらない。
お父様とお母様は今は海外に住んでいるため、時差もあるからだ。
だからお母様と話すのは久しぶり。

『…お父様は、ちゃんと、到着、したかしら…っ』

声がとても辛そうだった。