言われるがままやったことに『ありがとう』と言われたり、棚を整理した時に覚えた場所にお婆さんをご案内して『ありがとう』と言われたり…

なんて暖かいんだろう。


「私、ここで働かせていただけてとても楽しかったです。」


私の人生の中に働くという経験が出来るとは思わなかった。

「私の方こそ、楽しかったよ」

ナナミさんがそう言ってまた笑う。


私は茶封筒を大切に、両手で持ちながら家に帰った。








家に帰ると、お手伝いさん達が口々に心配の声を上げていた。

寄り道をして帰ったことなんて1度もなかった。
悪いことをしたはずなのに、私は高揚感で胸がドキドキしてた。

いただいた3000円は勿体なくて自室の机の引き出しに閉まった。

宿題をしなければと、私は机の上に課題の問題集とノートを広げる。
中学までは、通い続ければ大学までエスカレーター式でいける学校に通っていて、高校の授業はとっくの昔に終わっていたから、課題をさくっと片付けた。


時計を見ると日にちが変わっていた。
まだ興奮が冷めず、眠れない。
明日が来るのが嫌で眠れないことはあったのに…


手元に置いてあったスマホの通知音が鳴った。

(電源、切ってたからか…)

宿題を早く終わらせるためにスマホの充電を切っていたので、電源を入れてから通知音が鳴ったのだ。