もう終わっていいよ、とナナミさんに言われたのは夜8時。
案の定お手伝いさんからの着信通知がスマホに入っていた。
少し悪いことをしている感じがしてしまったのに、心は少し暖かかった。
私は来ていた服を脱ぎ、セーラー服の姿に戻る。
『着替え室』を出ると、ナナミさんと、3時間前に出会った"ケンさん"という人がパイプ椅子に座って談笑していた。
「お、着替え終わったね」
ケンさんは私の着ていたものを預かると、それと引き換えるように茶封筒を渡す。
「これは…」
「中、みていいよ」
私は渡された茶封筒の中身を見る。
中には1000円札が、3枚。
「今日頑張ってくれたから、少しばかりなんだけど、受け取って」
ケンさんがそういう。
中身はお金だった。
お金を渡されるといえば、両親がたまに帰ってきた際に札束を渡されたり、クレジットカードを渡されたりだった。
いつも貰う額より圧倒的に少ないのは一目瞭然だった。
それなのに、
「もう!ケンさん、ニカを泣かせないでよー」
「あぁ、ティッシュ、ティッシュ……」
私は泣いてしまった。
今日の、たった3時間のことを思い出してしまったから。



