最低。
私は最低な人間。

でも美咲といれば、そんなこと忘れられる。
純粋な心、真っ直ぐな眼差し、可愛い笑顔。

忘れられるって思ったから、私は美咲と付き合った。






「ニカ先輩。見に来てくださってありがとうございます!」
「凄かったよ!お芝居に引き込まれちゃったよ!」
「嬉しいです!」

今日は前にオーディションが受かったと聞いていた舞台を見に来ていた。
足もだいぶ良くなって歩けるようになったのに、お手伝いさんたちがあまりにも心配しすぎて会場まで送ってもらった。

少し小さめの劇場だけど、席もほとんど埋まっていて、関係者席には私でも知っているレベルの役者さんもちらほら見受けられた。
そんな関係者席にど素人が混ざりこんで大丈夫かと思っていたが、そんなことを開演中は忘れてしまっていた。


「感想は学校で聞かせてください!私行きますね!」
「うん、夜も頑張ってね!」


まさかここまで凄い子だなんて知らなかった。
遠い世界にいそうな子が、こんなに近くに、彼女だなんて。
アルバイトもして、努力家で、

私は何をしているのだろう。


走り去っていく、私よりも小さな、でも努力を自信に変えた彼女の背中は、逞しく見えた。