「ご指名などはありますか?」

「あの……このお店初めてで、よく分からなくて」

 更咲が上目遣いでそう言うと、男性が微笑みながら隣に座ってきた。

「大丈夫ですよ。何か飲みたいものとかある?」

「シャンパンが飲みたい!」

「じゃあ、シャンパン入れるね」

 それから何人かのホストの男性が席に着き、会話が始まる。

 ホストの男性は絶妙な間合いを取りながら会話を始め、少しずつ距離を詰め、その場を盛り上げていく。

 さすがはプロだ。

 女性がの喜ばせ方、楽しませ方を知っている。

 更咲達はホスト男性達の巧みな話術の虜になっていく。そして気づけば、高い酒を入れていた。

 まあ良いか、今日はみんなで楽しむって決めてたし。三人で割れば驚くほどの金額でも無いだろう。音楽とマイクパホーマンスの響く中で、更咲は一人の男性を見つけ出す。

 あれ?

 あの人って……。

「マナト、あそこにいる人呼んでもらえない?」

 マナトはこの店に入った時に声を掛けてくれたホストの男性だ。

「ん?どの人?」

「ほら、あそこで話している人」

「ああ、あの人は無理だよ」

「えー。どうして?」

「どうしても、ほら俺がいるでしょ。更咲は俺だけ見てなよ」

 そうして楽しんでいるうちに、更咲の記憶から男性のことは忘れられていた。