「引っ越しを頼まれました。本日はよろしくお願いします」
作業着を着た数人の男性達がドカドカと部屋の中に入ってくると、それを涼が勝手に迎え入れている。
「なっ……」
美月は先ほどから、へ?、は?、な?と一言ずつしか喋っていないが、話がどんどん進んでいく。
「では始めますね」
「お願いします」
お願いしますって、この人は勝手に何を言っているの?
「ちょっと!笹原さん、引っ越しってどういうことなんですか?」
「ん?だって昨日美月に一緒に暮らそうって言ったら、良いよって言ったから」
「いや……それ、酔っ払いの戯言だから!全く覚えてないし」
「えーー。でも、約束したし」
「どんな約束ですか!」
「美月と一緒に暮らして、君を一生守るって」
涼がそう言いながら美月の左手を取り、その指先に口づけた。そのままの状態で涼が上目遣いで見つめてくるが、その目は真剣そのもので、冗談を言っている様には思えなかった。
指先に温かく柔らかい涼の唇を感じ、心臓が信じられないほど早く動く。
そんな話をしているうちに、引っ越し業者の人達によって、荷物が外に運び出されてしまう。美月の部屋に余り物が無いというのもあるがプロの仕事は早く、あっという間に部屋から物がなくなっていく。それを見た美月が我に返る。


