*

 レインホテルを出た美月は、ただひたすらに歩き続けた。何も考えずに歩き進め、気づいた時にはきらびやかなネオンが目に眩しい街の中を歩いていた。今、足を止めることが危険な事は分かっていた。

 今、歩みを止めたら確実に私は歩みを……死を選ぶだろう。それほどまでに疲れていた。こんなに苦しいなら良いじゃ無いか、もう楽になろうよ。そんな声が聞こえてくる気がした。フッと顔を上げ回りを見回すと、街の中は夜だというのに昼のように明るく、人々が楽しそうに行き交っていく。

 楽しそうな人々の笑い声。

 その笑顔、声、きらびやかな光……その全てが今の美月には辛く、惨めにさせた。

 どうしたらあんな風に楽しく生きられるのだろう。

 グッと唇を噛みしめる。

 最近この仕草が癖の様になってしまった。嫌なことがあると唇を噛みしめてしまう。しかし、まだそんな感情が残っていたことに安堵した。惨めで、辛くて死にたいと思っていたのに、悔しい、どうにかこの現状から抜け出したいと思っている自分がいるのだ。