ああ……この人はいつもそうだった。私の話は聞いてくれない。人からの話を聞き勝手に解釈をしては、こちらに当たり散らす。妹の話を聞いても私の話は聞かないような人だった。
両手の拳を握りしめ、助けを求めるように母に視線を向ける。
父とのやり取りを泣きながら見ていた母も、軽蔑《けいべつ》、侮蔑《ぶべつ》、蔑視《べっし》といった目でこちらを見ていた。
この人も父と同じ人種だった。
そんな両親と言えども、今一番頼りにしたい人達から突き放されてしまった悲しみに、涙が溢れ出しそうになる。唇を噛みしめながら美月は震えそうになる口を開いた。
「私は……」
「お前の話など聞く気は無い!」
私が話し始めると、それを遮るように父が怒鳴った。
やはり父は私の話を聞く気が無いようだ。
カタカタと震える体を父と母には気づかれたく無くて、体に力を入れる。
なぜここまで父は激高し、母は嘆き悲しむのか……。
それは今まで真面目だけが取り柄の私が道を踏み外したから?
だからもう、この家の子ではないと?
一度道を踏み外しただけで……たったそれだけで、血の繋がった親子の縁を切るというのか?
もう……全てがどうでも良くなった。
私とはもう話すつもりが無いのだろう。
私から目を逸らしている両親に向かって、一応今まで育ててもらった感謝を込めて一礼して外に出た。玄関の扉を閉めると一気に感情が溢れ出す。
もう、この家に帰って来ることは無いだろう。
涙が頬をつたってボタボタと流れ落ちていく。
ここにいてはいけないと玄関の取っ手を握り絞めていた手を離し飛び出すと、外に出てすぐに妹の智咲とすれ違う。するとすれ違いざまに智咲の口から、囁く様な声が聞こえてきた。
「ご愁傷さま……」
えっ……。
涙を流したまま振り向けば、智咲が楽しそうに笑っていた。
含みのある言葉……まるで全てを知っていたかのように……。


