そして私は職場に退職届けを提出した。会社を寿退社すると言った時の社員皆の表情は、今思い出してもおかしくなる。まさか私が寿退社するとは誰も思ってもいなかったのだろう。退社日当日は、涼がヘアメイクをしてくれて、いつもとは違う自分で出勤すると皆が慌てふためいて悔しがっていた。

 何がそんなに?と思うほど男性社員達が悔しそうな顔をしていたのが気になった。

 そんな状況の中、無事に退職すると、涼が迎えに来てくれていた。

 以前は涼と並ぶと釣り合わないなどと言われていたが、涼のおかげで大分ましにはなってきたと思う。

 今の私はあなたの隣に立っても、大丈夫ですか?

 そんな思いで、涼に微笑むと、綻ぶような笑顔が返ってくる。

 こんな日が来るなんて思ってもいなかった。

 


 慌ただしく引っ越しの準備が進み、パリへと旅立つ日がやって来た。がらんとした部屋を見つめ、二人で微笑む。

「何もなくなっちゃったね」

「そうだな」

「向こうでやっていけるかな?」

「美月なら大丈夫。フランス語の勉強も頑張ってたもんな。これから楽しいことばかりだよ」

「うん。そうだね。涼が一緒ならきっと楽しいことばかりだよね」

 涼の隣に並んでそう言うと、涼が私のこめかみにキスを落とし、可愛いリップ音が部屋に響いた。

「必ず幸せにする」

「よろしくお願いします」

 そう言って二人は微笑みあった。

 

 私の物語はこれから上手くいくのかもしれない。




    *FIN*