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「はい。これで出来上がりです」

 テキパキと動いていた女性達が、満足そうにこちらを見て頷いていた。  

 そして私、岡本美月はドレッサーに映る自分を見つめ驚愕していた。

 目の前にいるのは一体誰なのだろう?

 綺麗に結い上げられた黒い髪に、顔には化粧を施され、まるで別人の様になっていた。頬はチークでふんわりと紅潮したように可愛らしく染り、唇は少し抑えられた赤い口紅が引かれていた。

 鏡に映るのは自分の顔だというのに、まるで違う人間のように見える。

 そんな私を見た女性達が、称賛の声を上げてくれる。

「とてもお美しいですわ」

「とてもお綺麗です」

「本当に!笹原様が惚れ直しますよ」

 女性達が仕事をやりきったと、フーッと息を吐き出しながら、汗を拭っている。

 そこでスタッフに呼ばれた涼が入って来た。扉の入り口から数歩中に入ってきたところで、涼が足を止めた。

 どうしたのだろう?

「あの……涼?どうですか?」

 ゆっくりと立ち上がりながら涼を見つめると、口元を押さえた涼がまたブツブツと何かを言い出した。

 それを見ていた女性スタッフ達がクスクスと笑いながら涼に声を掛けた。

「帰るなんて言わないで下さい。せっかくこんなに美しくなられたのです。見せびらかしに行って下さい」

「そうですよ。絶対うらやましがられますよ」

「それにほら、言ってあげて下さい」

 そう言われ涼が美月の前までやった来た。

「美月綺麗だよ。このまま連れて帰りたいけど、行かなくちゃね」

「えっと……何処へ?」

 首を傾げていると、涼が優しく微笑んだ。

 ああ……この顔、好き。

 何もかも包み込んでくれるような涼の笑顔が私は好きだった。

「さあ、本番だよ。行こうか美月」

「……本番?」

「大丈夫、きみのことは俺が守から」

 部屋を出ると、先ほどの女性達が頭を下げながら見送ってくれた。

「「「行ってらっしゃいませ」」」