人生は物語のようには上手くいかないと私がそう悟ったのは、人より幾分早い頃だったのではないか思う。

 それは私が幼稚園に通っていた頃の出来事……大好きな陽ちゃん(ようちゃん)と遊ぶ約束をしていた。しかし、その約束は簡単にやぶられる。

「やっぱり、ちーちゃんと遊ぶから」

 ちーちゃんとは、私の一つ下の妹の事だ。

 妹は私とは違い、愛想が良く可愛らしい容姿をしていた。キラキラと光る大きな瞳にふっくらとした頬、形の良いピンクの唇をした妹を見た誰もが、妹の虜になった。普通の家庭なら姉のお古の服が妹にいくと言う話はよく聞くが、私の家では違った。年が一つしか違わない私達姉妹は背丈がさほど変わらない。そのため妹のお古が自分の所に来るという逆転現象が起きていた。妹はいつもリボンやフリルの沢山付いた服を好んで選んだ。そして飽きた服が私の元に来る。

 手元にある服を見つめげんなりしていると、親は決まってこう言う。

「あなたはお姉ちゃんなのだから、我慢しなさい」

 お姉ちゃん……両親はいつもこうだ。

 他にも姉である事を両親は強要してくる。

「あなたはお姉ちゃんなのだから、妹の面倒を見なさい」

「あなたはお姉ちゃんなのだから、助けてあげなさい」

「あなたはお姉ちゃんなのだから、しっかりしなさい」

 お姉ちゃん……。

 私はお姉ちゃんだから我慢をしなくては……。

 そう思っていてもフリルをふんだんに使った妹の服が陰気な自分に似合うわけも無く、両親に訴えるとあからさまに嫌な顔をされた。

「あの服は高かったのよ。智咲(ちさ)はあんなに嬉しそうに着ていたのに」

 智咲……妹はそうだろう。

 自分に似合う服を選んでいるのだ。嬉しそうに着るだろう。

 しかし私は違う。

 妹の様な華やかな容姿はしていないのだから、可愛いフリルの服……それは当然私には似合わない。

 そんな服を学校に着ていけば、クスクスと笑う声が聞こえてくる。そんな小学生時代は地獄だった。しかし中学に入れば制服があったため外に出る時は制服を着た。これで自分には似合わないフリルの服を着る必要は無いと安堵した。 

 それでも妹の存在はつきまとう。

 まるで妹の引き立て役のような私は、ひたすら妹の陰に成り下がる。私の心惹かれた……両親や友達、好きな人、全てを妹に奪われる。

 だから友達は作らない、恋愛はしない。

 好きな人は作らない。

 そう心に決めていた。