「クロエ様」
 
 せっかく悪口から逃げてきたというのに、わざわざ自分を見つけて声をかけてきた令嬢にクロエは笑みを浮かべ振り向き、ドレスの裾をもち最上級の挨拶をする。
 
 相手は侯爵令嬢より格上の王太子妃となる令嬢だ。

「ソレンヌ様、お声かけいただき光栄に存じます」
「私たちは親友同士。どうか楽になさって」
 
 確かに王立学園に通っていた頃は、彼女と学友だった。
 そして同じ親友のアロイス王太子との婚約が決まるまではそうだった。
 
 今は二人、王族であり、クロエは臣下として礼儀を尽くさねばならない。

「しかしながら……」
 
 そう躊躇っていると「お願い」と哀しい声が落とされる。懇願されると弱い。
 
 では、とクロエは顔を上げる。