――まあ、また始まったわ。クロエ様の「虐げ」が。
 
 ――あらいやだ。「貴族社会の礼儀作法を指南」ですのよ。
 
 ――完璧な貴族令嬢の作法をお持ちのクロエ様ですものねぇ。
 
 ――けれど、厳しすぎではありません? お若いうちは間違いの一つや二つございますでしょ?
 
 ――間違いを起こすようでは社交界に出る資格はない、というのよきっと。

 
 そして、最後にはこう侮蔑と憎しみを籠めて言い合うのだ。

 ――さすが『悪役令嬢』様よね、と。

 
 クロエはまた扇越しにそっと溜め息を吐くと、それは優雅に淑やかに、一人になれるバルコニーに向かった。