ブレンダの耳元まで顔を寄せ、扇越しに囁く。

「その手袋……夜会用ではございませんわね。袖のないドレスを着用なさるのでしたら作法にかなった物を着用なさいませ」
「……っ!? も、もうしわけございませんっ。す、すぐに替えてまいります」
 
 自分の失態にブレンダは可哀想なほど顔を真っ赤にしたり青くしたりしながら、挨拶もそこそこに会場を後にした。

(途中までは淑女らしく頑張っていてよかったのに、あんなに動揺してしまったら今夜の噂の的になってしまうわね)
 
 クロエは扇越しから、そっと辺りを見渡す。
 
 周囲ではヒソヒソと声を落とし、囁いている貴族令嬢たち。
 話している内容は一様に同じだ。