悪役令嬢の初恋

「ああよかった。私の一世一代の求婚がうまくいって」
 
 立ち上がり、ルイスはクロエを抱きしめる。
 急な展開におたつくクロエだったが、彼の温もりと匂いに包まれ、その心地よさにそろそろと彼の背中に腕を回した。

「本当にわたくしでいいのですか?」
「貴女でなくては駄目なんだ」
「こんな口うるさい、冴えない顔のわたくしでも?」
「クロエの言うことは真っ当で口うるさいとは思わない。それに冴えない顔だなんて誰が言ったんだ?」
 
 ルイスの大きな手がクロエの両頬に触れる。
 もっともっと近い距離に、クロエの胸は早鐘をうち過ぎて壊れそうだ。
 
 でも、彼から目が離せない。
 きっと自分は、ほろ酔いしたような表情で彼を見つめているに違いない。
 彼もそんな顔をしているから。

「クロエは可愛いよ。特に私に向ける笑顔といったら最高で、誰にも見せたくないくらいだ」
「本当に?」
「ああ、これからは妻としてずっと私と笑っていてほしい」
「……わたくしの顔にも長所があったのですね」

「お馬鹿さん。クロエはもっと自分の魅力を知るべきだ。――まあ、私が知っていればいいことだけど」
 顔が近づいてくる。クロエはそっと瞼を閉じる。



 初めての口づけはほんの少し、涙の味がして、

「しょっぱい」
 
 と、思わず口走ってしまった。
 
 目を瞬かせルイスと目が合い、自然に笑いが零れた。